おうちの中でも、事故は起こる。 その二

いやいや~、夕べの診療ではまたおうちの中での”事故”の
症例に出くわしました。しかも、とてもとても恐ろしい症例に。
たったそれだけの事で、ここまで重篤な状態になってしまうのか、と
いたく思わされた症例でございます。
せっかくなので、続けて記事にさせて頂こうと思います。


症例は、生後3ヶ月のミニチュアダックスさん。
ちょうど元気いっぱい、やんちゃ盛り、かわいい盛りの頃ですね。
病院にお問い合わせのお電話があったのは12時前の事。
ワンちゃんが遊んでいて頭を打った、それからふらふらしている、との事。
看護士さんが説明をし、診察に来て頂く事となりました。

で、病院に到着されたのは12時45分頃でしたでしょうか。
診察室に入ってもらって、びっくり。
呼吸状態がひどく悪いのです。
人間で言う”肩で息をしている”という状態。少しでも多くの酸素を
取り込もうと必死で息をしている『要力呼吸』という状態。
『呼吸促迫』とも言えます。
そして、聴診器を使わずともわかるほどの、悪い呼吸音。
「頭部(脳)ではなく、肺損傷?!」と思い、唇をめくってみれば。。。

背筋が凍るかと思いました。
歯茎の色も、舌色も。
健康な、正常な色を失った、全くの蒼白色。
人間でも、プールで冷えたりすると、唇が青紫になったりしますよね?
あれから、もっと色が抜けた状態だと想像してもらえれば近いと思います。

人間でも動物でも、歯茎や舌の色がキレイなピンクに見えるというのは、
肺でちゃんと酸素を受け取った血液がしっかりした量・正常な血圧で
血管を流れていて、初めてあの色に見えるのです。

この子の場合は、呼吸状態から肺のひどい損傷と、それから脈圧も落ちて
いましたので、血圧が落ち、ショックを起こしかけている事が予測されました。

完全なるエマージェンシー(緊急疾患)です。

とりあえず飼い主さんに、今にも命の危険な、緊急状態であることをお伝えし
詳しいお話や病状説明は後回しにして、必要な検査・処置をさせて頂く
事としました。

緊急薬の投与をし、レントゲンを録り、患者を酸素ゲージへ入れ。
その時です。興奮か、痛みの為か。ケージ内でごそごそ動き回ったかと
思ったら、ひどい咳、そして喀血。
もうそのまま逝ってしまうのでは、と緊張が走った瞬間でした。
こんなひどい状態での興奮・暴れることは、それだけで酸素を消費し、
それだけで命取り。
落ち着いてもらう為に、鎮痛・鎮静作用のある薬剤も投与し。
なんとか、少し落ち着いてくれました。。。

検査結果から考えられたのは、やはり頭部の強打とそれに伴う
肺の水腫・出血。胸部のレントゲンでは、絶望的なまでに、
うなだれたくなるほどに真っ白に悪くなった肺が見られました。
・・・何故頭部の損傷から肺が悪くなるの?というのは書き出すと長く
なりすぎるので、又、その機序には医学的にまだよくわかっていない
点もあり、割愛しますが、脳神経の損傷から肺に水がたまってしまう
”神経原性の肺水腫”というのがあるんですね。
この子の場合は、おそらくそれではないかと思われました。

もちろん、胸そのものを打っていて、肺の挫傷・出血、というのも
考えられなくはないです。しかし、落ち着いてから詳しく状況を
お聞きすると、

毛布に噛み付いて、じゃれて遊んでいた。
で、その毛布を噛んで引っ張ってるうちに、勢い余って後ろにひっくり返って
後頭部を打った。

という状況だったそうなので、その状況で胸部をそんなひどい損傷を
受けるほどに強打する、というのは考えにくいとの判断で
神経原性のものだろう、と思われました。


・・・辛いのが、本当に純然たる事故だということ。
犬も、飼い主さんも悪くない。
子犬は、じゃれつくもんです。
ちょっとやんちゃすぎるきらいがあるので、飼い主さんも常々気をつけていた、
とおっしゃる、納得できる飼い方をしてらっしゃる飼い主さん。
その中で起こってしまった、不幸な事故。
お母さんと娘さんでいらしてたのですが、命の危険性がある、と聞いた途端に
娘さんは泣き崩れてしまいました。。。
きっと、その現場に居合わせたのが自分だったので、責任も感じて
しまわれたのでしょうね。

幸い院内ではその後落ち着いてくれ、再度の喀血はありませんでした。
しかし酸素室内でじっとしていれば舌色も改善するものの、少し動くと
途端にまた舌も白くなり、呼吸も粗くなる、という危険な状態。

それでも、夜間のみの救急病院ですので、朝になったら自宅へ、
主治医さんのもとへ送り出さなければなりません。

看護士さんが作ってくれた、ダンボールの酸素ボックスに酸素を
しっかり入れて。酸素ボンベもお渡しして。おうちで喀血などがあった時の
注意事項もお伝えして。

その帰り際。入院の酸素ケージからダンボールへ移したら、
出たいねん!出して!って飛び上がるような行動が見られました。
アカンて!あんた重症なんやから、そんなんしたらまたしんどくなる!
倒れてまうで!じっとしてなさい!と言いながら、外が見えない様に
タオルをかけたんですが、、、
”大丈夫、そんだけの元気があったら、きっと主治医さんまで無事に
たどり着く、そんできっと元気になるよ、な?”と信じたい気持ちの
自分が、居りました。

そして明け方。祈るような気持ちで自宅へ向かう車を見送りました。


こういう日は、やはり家に帰ってきてもその子の事が気になります。
無事に、主治医さんのもとへたどり着いてくれたかな、と。
少しは回復に向かってくれているだろうか、と。

・・・いつもいつも思う事ですが、救急診療の辛いところですね。。。

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